四方田犬彦『女王の肖像』

読むべき本が他に数冊溜まっていたので、ようやく本書の順番になりました。
一ヶ月ほど塩漬けだったでしょうか。

比較文学者である四方田犬彦氏が、切手収集家であることを本書で初めて知りました。
氏の多くの著作と同じく、本書もエッセイとして書かれたものであることから、一般向けに切手収集を紹介するものではなく、読み捨てに近い内容のもの。

装丁は、なかなか手が込んでいて、最初に手にした時は非常に好感の持てるものでした。
購入はAmazonなどのネットで可能ですが、出来ることなら出版社(工作舎)から直接買われることをオススメします。
なぜなら、直販だと下の画像のような架空の切手(?)に、架空の消印(?)を押した特製本として送ってくれます。
この架空の切手は2種類あって、注文時に指定することになっています。

本書を読み進むと、記述に細かな間違いが各所に見られるのですが、一般向けのエッセイならば問題にならない程度だと思います。
ただ、どうしても気になる点が他に二つほど。

一つは、図版に使われている切手の状態が総じて悪いこと。
これを見た一般の読者が、収集家は「汚い切手」でも平気で集める美的感覚が無い人達と誤解されかねません。
どんな書物でもそうですが、図版には特に美しさが必要であることは本を作る基本のはずです。

もう一つは、本書に登場する郵趣用語で「透し」だけが「ウォーターマーク」と英語のカタカナ表記になっていて、これが各所で目立ちます。
「目打」と書きながら、次に「ウォーターマーク」と書かれていると、用語の統一と言う点で気になりますし、「透し」という一般的な和訳があるので、やはりこちらを使わないと文章全体の違和感につながります。

内容は、切手の図案から社会を読み取ることの紹介が中心になっています。

本書は、あくまでも多少の郵趣知識を持った著者によるエッセイとして読むことが大切だと思います。

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