与那原 恵『琉球切手を旅する』米軍施政下の二十七年

本書は、昨年末に中央公論新社から刊行されたものですが、元は『中央公論』に連載されていた記事を大幅に改訂して一書にまとめたもの。
著者の与那原氏は、名字からも知れるとおり琉球にルーツを持つ方(本人は生れも育ちも東京。ただし両親が琉球出身)であり、これまでにも琉球に関する著作を何冊も出されています。

本書は、タイトルにもあるとおり琉球切手を通して米軍施政下の沖縄を展開した内容ではありますが、著者が自身で述べているように、与那原氏は切手収集家ではありません。
このことは、「ストックブック」を「切手スクラップブック」と呼んでいることからもわかります。

目次は、下記のとおり。
第一章 琉球切手の旅へ
第二章 琉球切手の誕生
第三章 一九五〇年の沖縄
第四章 文化財復興とペリー来琉百年
第五章 コロニア・オキナワ、琉球芸能の復活
第六章 島ぐるみ闘争とドル切り替え
第七章 屋良朝苗と復帰運動の一本化
第八章 オリンピックとベトナム戦争
第九章 返還合意
第十章 さよなら琉球切手
となっており、編年体による通史的な展開であることがわかります。

本書は郵趣書のように、ページのあちらこちらに切手などの写真が掲載されているものではなく、各章の扉に関係する琉球切手の白黒写真が掲載されているにすぎません。
あとは、ひたすら文字ばかり。
ですから、郵趣書として期待して購入すると「なーんだ」ということになります。

本書は、切手に語らせた沖縄現代史というよりも、沖縄現代史を切手を題材として語ったものという表現が正しいと思われます。

内容的には、著者による関係者への聞き取りや原本の確認を始めとする緻密な取材の結果として著述がなされており、最近よく目にするコピペで出来上がった安直なものとは、一線を画する書として好感が持てます。
琉球切手発行の土台を知るには、極めて有益な書としてオススメできるものです。

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