「郵便史・郵便印紀行「明治の東京・深川 郵便局ぶらり散歩」」

表題の解説を収録した『切手の博物館紀要』第20号を、著者の鎌倉氏がご恵贈くださいました。
本稿には副題が付いており、それを含めた正式タイトルは「郵便史・郵便印紀行「明治の東京・深川 郵便局ぶらり散歩」〜郵便史・郵便印コレクションにおける新しい研究発表の作品形態の試行と成果〜」となります。

氏の深川の郵便局を主題とした作品は、これまでに複数回展示されているので、どこかでご覧になった方も多いと思いますし、その表現手法に強いインパクトを受けた方も、また多いものと思います。

氏は、本稿の中で「郷土の郵便印の作品展示の場合、注意しなければならないことは、同種の古い郵便物が数多く並ぶ展示となり、郷土の関係者や専門家の目には留まるが、残念ながら日本郵便史の一般的な研究として多くの人に認識して頂けない、という現実がある」と、郷土の郵便印の現状について冷静な目で分析されています。

このことは、過去のオークションを振り返ると解りやすく、例えばある郷土の郵便印のテーマで2名の熱心な収集家がいれば常軌を逸したべらぼうな高値になることが常態化しますが、その内の1人が収集から脱落すると一挙に沈静化し、値崩れします。
例えば、三十数年前に「信州モノは高い」と言われていたのが、その好例でしょう。
つまり、郷土の郵便印というテーマは、狭い範囲の収集家しか興味を示さず、大多数の収集家には興味の範囲外のことなのです。

その当事者は熱烈ではあるものの、その他の者にとっては興味の対象外となってしまう郷土の郵便印を、普遍的に興味を持ってもらうための一つのアイディアとして示したのが、「明治の東京・深川 郵便局ぶらり散歩」という作品。

本作品は、狭い視野しか持たないコテコテの消印収集家から見たら「なんじゃ、これは!」と思われるかも知れません。
なにしろ、古地図があって、現代地図もあったかと思えば、各種現代切手や風景印、そして「のらくろ」の小型印まで貼ってあるのです。
もちろん、伝統的な郵便史マテリアルはてんこ盛りですから、そこのところはご安心を。

こうした、多種多様なマテリアルを用いて郷土の郵便印を展開した作品なのですが、その根底にあるのは郵便局。
作品では郵便局単位で、その歴史的な成り立ちを地図やマテリアルを用いて紹介し、その後に明治時代の郵便印を紹介するという展開。
それは郷土の郵便史でありながらも、郷土のテーマチクのようで、郷土のオープンクラスのような作品なのです。
実際の作品は、本書掲載の作品をご覧になっていただきたいのですが、ご覧になっていただければ決して一部の「好き者」だけが興味を持つ作品ではないことが、一目で理解できるものと思います。

「深川学」という地域史学を勝手に作らせてもらえるならば、その入口、入門編と言える作品です。

ただ一つ難点と言えば、これは編集上の制約のためと理解できますが、リーフが横向きの縮小版であること。
「1ページ1リーフの正位置で贅沢に鑑賞できたら」と思うのは、僕だけではないと思います。

本作品は、郵趣家のみが独占するには勿体ないので、なにか地元で「深川を知る」流れの中で活用できる方策があれば良いと感じます。

お送りくださいまして、ありがとうございました。

「郵便史・郵便印紀行「明治の東京・深川 郵便局ぶらり散歩」」」への1件のフィードバック

  1. 『切手の博物館紀要』第20号の紹介ありがとうございます。競争展のルールを意識せず、自由に作品作りすると、切手展でも、種々の楽しい表現実現が可能かと思っています。この紀要は、博物館活動の一環で、博物館関係機関へ配布されるもので、郵趣家向けに出版されたものではないので、余り周知はされません。深川関係なので、江東区教育委員会、江東図書館、深川図書館郷土資料室、深川郵便局へも切手の博物館から寄贈して頂きました。発行部数が少ないのですが、ご興味ある方は、切手の博物館へお問い合わせください。P.136、カラー図版 頒布価1300円です。ご参考まで。

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