カタログの分類(『第1次動植物国宝図案切手』を読んで)

昨年のJapexで企画された第1次動植物国宝図案切手は、なかなか印象深く、今でも記憶の中に残っています。
その記録集が刊行され、熱心な多くの方に読まれたものと思います。

読んでいて気になったのが、12ページの解説。
ちょっと長いけど、読んでない方のために下に引用しておきます。

「日本切手の分類に従って、「産業図案切手」と「昭和すかしなし切手」(のうち産業図案切手に準拠した図案の切手)に分類して作品を展開してきたのであるが、『スコット』カタログがこの分類に対してダメ出しをしていて、当然のごとく同じシリーズの紙質違いとして扱っており、国際展の場で「産業図案切手と昭和すかしなし切手は別、というような分類は誤りである(以下略)」

と、このように国際展の場で指摘されたというエピソードが記されています。

僕は、外国切手メインの収集家なのでよくわかるのですが、ご指摘の点は全くそのとおりで、この2つを別物として扱うことの方がよくわかりません。
あくまで同じシリーズで、透し有りと透し無し。

そもそも、カタログというのは編集思想があって作られるものなので、それぞれの編集方針によって、様々な分類、採録方法があります。
本書では、なぜか『さくら』や『日専』の記述のみで、『日本切手カタログ』(以下『組合カタログ』と略)については全く触れられていません。
実は、この2者を比べてもらえれば、カタログの編集方針(商品で言うならば設計思想)が全く違い、それが収集にどのように影響を及ぼすのかを知ることができたのに、この点についての言及がなかったのが残念でした。

それはさておき、本文を読んで特によくわからなかったのが、『スコット』カタログ云々というくだり。
『スコット』の編集方針は、基本的に発行順となっているので、分類・整理はされていないのです。
言うなれば、生の状態とでも言いましょうか。
ですから、上の引用の中に記された
「当然のごとく同じシリーズの紙質違いとして扱っており」
という論は成り立たないわけです。

実は『組合カタログ』も『スコット』と同じで発行順の採録。両者を比べるとよくわかります。
ここまでの話しをまとめると、
『スコット』=『組合カタログ』=発行順=未整理で生の状態
ということになります。

ですから、上の引用文にあったような「『スコット』カタログがこの分類に対してダメ出しをしていて、当然のごとく同じシリーズの紙質違いとして扱っており」に繋がらないわけです。
『スコット』は『組合カタログ』と同じように、発行順の採録なのですから・・・。

次に、ポピュラーな世界カタログとして『ギボンズ』『イベール』『ミッヘル』を見てみましょう。
下の画像は、『組合カタログ』にこれらのカタログの採録状況を色別に示したものです。
分類上、『ギボンズ』と『イベール』は同じでした。それが赤枠で囲ったものです。
『ミッヘル』は少々違っていて、青枠で囲ってあります。

下は産業図案切手なので、問題はありません。
強いて言えば16円穂高を『ミッヘル』では別扱いにしています。

そして、下が昭和すかしなし。
この中で、『ギボンズ』『イベール』『ミッヘル』ともに、明らかに産業図案と共通の切手を分離しているのがわかるかと思います。
ただ、『ミッヘル』は4円初雁も含めてしまってはいますが・・・。

『ギボンズ』での採録を具体的にお見せすると、下の画像のようになります。
つまり、産業図案のグループの中に、(a)透し有りと、(b)透し無しがあるという分類です。

もう一つ『イベール』も見てみましょう。
『イベール』はフランス語なので、わかりやすく色分けして示しました。
やはり『ギボンズ』と同じように、産業図案というグループの中で透しあり(赤枠の部分)と、透しなし(青枠の部分)にわけています。

カタログ番号を見ると、なお一層このことが理解できます。
『ギボンズ』では、透し有り、透し無しともにメインナンバーを与えていますが、『イベール』は厳しく、透し有りにメインナンバーを、透しなしにはサブナンバーを与えています。

最初の話しに戻りますが、「『スコット』カタログがこの分類に対してダメ出しをしていて、当然のごとく同じシリーズの紙質違いとして扱っており」の部分が、『ギボンズ』または『イベール』カタログとなっていたならば、疑問を持たずにスラスラと読み進めたと思います。
『スコット』というのは、明らかに間違いと思われるし、このように書かれてしまうと、多くの外国切手収集家は「??」だと思われます。
『スコット』は、発行順の採録を編集の基本としており、このことは外国切手収集家ならば誰もが知っていることですから。
ちなみに『スコット』と同じ米国で出版されていた、『ミンカス』世界カタログも採録は発行順でした。

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