『青一』

先日、収友を通じて未知の方から、市田左右一氏の著書『青一』について質問を受けました。
そこで思ったのが、本書は著名な割りには意外と知られていない部分があって、収集家を混乱させていること。

今は、昔と違って郵趣文献の古書価格が、下がりに下がっています。
例えば、『日本切手名鑑』10巻揃いが、最高値の頃は10万円前後でしたが、現在では半値の5万円でも売れませんし、発行部数が著しく少なく四半世紀前には15万円以上の値が付いていた『墨六』が、5万円程度で入手できます。

今日の話題の『青一』も、以前なら定価以上の価格が付いていましたが、今では安ければ3千〜5千円で買えたりします。
ですが、皆さんここで安いからといって飛びついてはいけません。
安いには、それなりの理由があるのです。

僕が意外だなと思うのが、この『青一』が本文編と別冊図版編の2分冊で構成されていることをご存知ない方が多いこと。
確かに古書市場で出てくる『青一』の大部分、恐らく90パーセント以上、100パーセント近くが本文編のみで売られていますから、これだけを見ていると1冊本と勘違いしてしまうかも知れません。

ですが、発売当時の広告を見ると2分冊であることが容易にわかります。
昭和45年当時、定価で3万3千円、予約価3万円という、恐ろしい値段の本でした。
この値段、当時の東京都庁の大卒初任給とほぼ同じ金額です。
ここまで、高価な本になってしまった要因は別冊にあると考えられます。

この別冊は、青一の26版全てのシートまたはリコンストラクション写真で構成されており、しかも、それは安価な印刷ではなく、ポジ写真が一枚一枚手作業で貼り込まれているのです。
それが下の画像です。

本文編の方には、未知版についてはそれぞれのポジションが、拡大写真と拡大図の両方で掲載されていますが、有シート版についてはシート写真が印刷で載せられているに過ぎません。
このため、有シート版のポジショニングはルーペで覗いても網点が邪魔をしてしまい、ポジショニングはなかなか困難。
もっとも、『ペプローシート写真集』の原本(復刻版ではダメです)か、金井スタンプ商会が配布した『第2次ペプローシート写真集』をお持ちでしたら別ですが・・・。

別冊の方は先ほど紹介したように写真の紙焼きが直接貼られているので、ルーペで覗いてもクッキリ鮮明に一本一本の彫線を観察することができます。
また、装丁、製本ともにとても手の込んだもので、手作業で製本されていることがよくわかります。
ですから、別冊を見ると高価な文献であることが納得できるわけです。

青一について、一般教養程度に知っておきたいばあいは、安価な本文編だけでも全く問題はありませんが、手彫切手を集めてみたい、自分で青一のポジショニングをしてみたいという方は、本文編のみを購入してもあまり意味はありません。ぜひ本文編と別冊の2冊セットで購入されてください。

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