戦前の世界切手カタログの最高峰と言えば、このドイツの『ゼンフ』カタログ。
ドイツには通称『コールのハンドブック』と我々が呼んでいるものもありますが、こちらはハンドブックに分類され、しかも未完成で終わってしまっているので世界カタログには分類しないのが一般的。
ですから、戦前最高の世界カタログといえば、この『ゼンフ』になります。
現代の郵趣界にしか興味を示さない方にとって、『ゼンフ』は聞いたことが無いかも知れません。
僕が初めて『ゼンフ』を知ったのは、タイトルは忘れてしまいましたが三井高陽氏による著作。
氏は、ご存知の通りゼネラリストでしたが、戦前からドイツ切手を熱心に収集され留学先もドイツで、学生の頃からドイツから郵趣文献を入手されていましたから、『ゼンフ』は収集の友的な存在だったのでしょう。
画像左は1938年版ですから、日本で言えば昭和13年。
手元には1931年版がもう1冊ありますが、この7年の間にページ数がかなり増えています。
画像右は日本の手彫切手の終わりから小判切手の始めにかけてのページですが、手彫切手の概要や、模造品、小判切手の消印に対してのテキストが細かく記され、他のページには不足・未納印の解説もあります。
また、全体を通じて目打のバラエティも採録。
各切手には適切な注記が記載され、一例として震災切手あげると「出来の悪い目打付があるが、これらは非公式のものである」と記されています。
日本では戦後、しかもかなり経ってから着目されるようになった震災切手の私製目打ですが、『ゼンフ』では既に1938年には注記し、注意を促していることに驚きます。
このように、ドイツから見れば極東のマイナーな収集対象国と考えられる日本切手にも、こうした細かな注記がいたる所に見られるという、完成度の高いカタログが『ゼンフ』でしたが、欧州大戦の影響により1942年をもって戦前の刊行を終了。
ゼンフ社はライプツィヒ市に所在していたため、運が悪いことに戦後は東ドイツに所属することに・・・。
もちろん切手商としての営業は再開したのですが、遠く昔日のように復活することは出来ませんでした。
ゼンフ社のカタログについてご紹介したのですが、社業としてはカタログだけではなくヒンジも製造販売していました。
戦前には日本製のヒンジもあった(戦後も一時期はありました)そうですが、品質が非常に悪く、使い物にはならないシロモノであったとか。
そんな状態だったので、多くの収集家が使っていたのが輸入品、特にゼンフとギボンズだったそうです。
本カタログの広告ページには、ゼンフのヒンジも掲載されています。