先日配本になった同書。
最初にパラパラと捲ったところ、なんとも言えない違和感が・・・。
たいてい、こうした違和感って当るんです。
学生の頃から、数千冊の本に接して身に付いた「感覚」ってものでしょうか。
そこで、この違和感を知るために多少真面目に見返してみました。
大前提である「百科事典」という視点については、1万歩譲って脇に置いておきますし、また一つ一つの疑問点を取り上げたら切りがないので、今日は以下の2点を代表例として思うところを記します。
31ページ「カタパルト郵便」で、気になったのはリーフ下の解説。
そこには、「特にドイツの豪華客船ブレーメン号やオイローパ号で行われた例が有名で(以下略)」と書かれていますが、ここで第一に取り上げるべきは、カタパルト郵便を最初に実用化したフランス船イル・ド・フランス号の事例でしょう。
特にイル・ド・フランス号の加刷切手使用例は、カタパルト郵便の最高峰として広く知られているくらいです。
しかも、解説図版に使用されているカバーは、イル・ド・フランスのものですから、図版と解説文を一致させるという基本も出来ていません。
フランス船を語らずに唐突にドイツ船のみを記すというのは、一般向けの解説書としては片手落ちで、極めて不親切であると言わざる得ないでしょう。
40ページ「着色ルレット」。
着色ルレットはルレットの中の一部分ですから、51ページの「ルレット」の項目からあえて独立させた意味がまず不明。
つまり、親項目である「ルレット」から、子項目である「着色ルレット」を細別項目として独立させたのであるならば、他の項目でも同様に行われるべきで、それが見られないということは『百科事典』を標榜する書としての項目立てとしては不自然でしょう。
以下で言う「着色ルレット」とは、第1次新昭和30銭秀山堂切手のルレットについて述べたものです。
リーフ下の解説文には「(前略)日本の郵趣家は、初めて見る変わったルレットに驚き、郵趣知識の貧弱さもあって、「押抜目打」などといった、奇妙な呼び名まで登場しました。(中略)日本郵趣協会では、早くから「着色ルレット」という用語を採用してきました(後略)」と記されていますが、果たしてそうでしょうか。
確かに「押抜目打」という表現はありましたが、それは幾つもの表現が並行してあった中の一つでしかありません。
戦後しばらくの間、昭和切手収集家の間で広く読まれていた解説書に『昭和切手詳解』があります。
刊行は昭和23年ですから、秀山堂切手が発行された2年後になります。
本書は、用紙や銘版、目打などの製造面を当時のレベルとしては細かく採録したものですが、その中で秀山堂切手について「押抜(着色ルーレット 5〜6)」とリストしており、この段階で既に「着色ルーレット」という用語を使っているのです。
また、昭和32年発行の『日本郵便切手型録』(いわゆる組合カタログ)では「ルーレット目打」と記しています。
このカタログは、当時定期刊行されていた日本唯一のカタログで、収集家に広く使われていたものですが、それには「ルーレット」と記されており「押抜目打」とは記されていません。
ちなみに、日本郵趣協会の機関誌『郵趣』昭和34年4月号掲載の「新昭和切手解題」(3)秀山堂切手の解説では「目打がルーレット状の押抜目打である」と記し、表でも「目打:押抜 5〜6(ルーレット状)」と記されています。
つまり、日本郵趣協会では組合カタログが「ルーレット」を採用していたにも関わらず、遅くまで「押抜」という用語を使っていたことになりますし、先に見たように日本郵趣協会よりも先に『昭和切手詳解』の中で「着色ルレット」という言葉も使われているのです。
『ビジュアル百科事典』の中で、先人の業績を扱き下ろすかのような書き方をした解説ですが、その実態は先人の業績を全く学ばず評価もしない「郵趣知識の貧弱さ」(皮肉にも解説文中で著者が言い放った言葉)から書かれた、信じ難い内容であるわけです。
確認したところ、著者が誇らしげにあげていた『さくら』の前身である『原色日本切手図鑑』の初版(昭和42年)では「ルレット」、『日専』の前身である『新日本切手カタログ』の初版(昭和35年発行)では「着色ルレット」となっていました。
このことから、『原色日本切手図鑑』の初版が刊行された昭和42年の段階ですら、日本郵趣協会の中で用いられる用語としての統一が図られていなかったことがわかり、先に記したリーフ下の解説文とは大きく矛盾しています。
広い読者層を想定していると思われる書の中で、ある特定の団体を一方的に称賛する(しかも間違った)プロパガンダ的な記述は、本書の性格に相応しいものとは到底思えません。
本書は、この他にも穏当性に欠く記述や図版が何ヶ所も見られるのですが、仮に魚木氏自身がそのことにお気付きになっていなかったとしたら、一読者として、氏の「老い」を感じざる得ません。
本書は、専門書ではなく郵趣の世界においての一般書、普及書であると思います。
つまり、そこに想定される読者層は、深い郵趣知識を有しない方達です。
であればこそ、もっと考え抜かれた文章により書籍を作るべきだったと考えます。
本を作る、世に問うという視点に立てば、郵趣出版の仕事も雑過ぎたのではないでしょうか。
書名に記された「教養としての」という言葉が、虚しく感じる書でした。
私も読みました。
巻末の郵趣用語にも間違いがあります。
ご覧くださいまして、ありがとうございます。
郵趣用語のページでは、私もあまりに初歩的なビックリする間違いを見つけています。
それが、ご指摘と同じヶ所かはわかりませんが。
収集始めて暫くしたら必要な一般的基礎知識かもしれませんが、この本の中身を知らなくてもいいか、というのが実感。
解説文の件は共著者に問題があるのでは? ネット情報だったら消せるけど、出版ならちゃんと書かないと、後世まで残ります。間違いは早く直しましましょう。
いつも、ありがとうございます。
>解説文の件は共著者に問題があるのでは?
実は、私も当初からそのように考えています。
また、私メールで下さっている方々も同じ見立てをしています。
ですが、明記しなかったのは、文責がどこにも記されていないのでわからないのです。
また、筆頭著者名が魚木氏なので、その責任上、当然ながら校閲を行っているはず。
ということで、最終責任者は魚木氏であると考え、ブログのような書き方になったしだいです。
広告しか見ていませんが、図版の切手の状態が良くないものがあります。例えばペンスブルーは肝心の女王の顔が消印で見えません。他にも消印の汚いものが散見されます。
いつも、ありがとうございます。
そうなんです。
他の図版でも、安価な入手が容易な切手であっても使用済があちこちに。
「ビジュアル」を標榜しているのですから、やはり図案が綺麗に見える切手を選ばないと。
「切手を選ぶ」ということが、全くおざなりになっている本です。
雑な編集です。
魚木先生の個展の展示リーフをそのまま図版としているようですが、一般向けでもある以上は配慮が不足していると思います。
いつも、ありがとうございます。
あの本は、私家版だったらまだマシだったのですが・・・。
郵趣出版の本は、一般書店や大手ネット通販にも流れますから、そうした背景を考えると不適切な商品ですね。