切手入門書には、よく「切手以外の参考書も読みましょう」的なことが書かれていました。
例えば、魚木五夫氏の『外国切手の集め方』には、郵趣外文献として「辞書と文法書」「地図」「旅行案内書」「歴史書」が上げられています。
切手収集というものは、文化そのものを扱う趣味ですから、単なる収集のテクニックを記したノウハウ本を読んだ知識だけでは、表面的な薄いペラペラな収集知識で終わってしまい、重厚な収集には発展しません。
そのため、僕も以前から機会があれば、そうした郵趣外文献を紹介してきました。
例えば、随分古い話しですが2008年8月19日には関東大震災に関わる文献として、下記を紹介したことがあります。
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「正午二分前」外国人記者の見た関東大震災
今日、ご紹介するのは画像のもの。
両者ともに第二次世界大戦絡みですから、ドイツやフランス、スイス、イタリア辺りの収集家オススメです。
どちらか1冊と言えば、左です。
『第二次世界大戦下のヨーロッパ』笹本俊二著
大戦勃発前からヨーロッパで生活していた著者は、戦争が始ると終戦までの間にスイス、トルコ、イタリア、フランス、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、ウクライナ、ドイツを点々とし、ベルリン陥落寸前にスイスへ脱出した経過を軸に展開しています。
特に驚くべきことは、東部戦線でハンガリー軍に従軍記者として視察に参加し、ソ連との戦いも経験されていること。
日本語で書かれたヨーロッパ戦争については、各種史料を元に後年の歴史家が叙述したものばかりですが、本書は日本人として貴重な体験をした筆者が、生の記録として記したものなので、他書では得られない歴史の証言があちこちにちりばめられています。
もちろん、各国の思惑が錯綜して捩れた状態であった各国外交の政治史も記されているのですが、それはあくまで実体験を記すための脇役でしかありません。
僕は、本書を学生時代に履修した「西洋史特講」(この年のテーマはドイツ現代史、特にナチスドイツ)の副読本として読んだのが最初でしたが、意外なことに当該国の収集に役立っています。
『パリ、戦時下の風景』大崎正一著
大崎氏は、大倉商事(戦前の大倉財閥の一部門)パリ支店に勤務され、パリ支店勤務の日本人としては唯一人、大戦終了まで残られ、終戦後に日本へ帰国されています。
本書は、前書とは異なりゴロゴロしながら気軽に読める内容で、フランス人やパリ占領後のドイツ兵との付き合いなどが記されており、戦中期パリでの生活の実態が克明に記されています。
特にビックリしたのは、後に上野にある国立西洋美術館設立のきっかけとなった松方コレクションが、戦中にどのように保管されていたのかが、さりげなく書かれていたこと。
『パリ、戦時下の風景』という書名はよく考えられたもので、本書の内容そのものを的確に表しています。
二書に共通したことで目からウロコだったのは、各国に滞在していた日本陸軍の駐在武官が共通して嫌いだったのが、なんと同盟国ドイツの軍人であったこと。
特にベルリン駐在武官達が「大島大使(親独で有名)以外は、全員がドイツ軍人など嫌いさ」と、さりげなく言ってしまうほど。
政治的に作り出された同盟と、感情が入り乱れる人の気持ちは異なるという好例だと思います。
ですが、それほどまでに日本の軍人が、ドイツ軍人を毛嫌いしていたとは・・・。びっくり。
収集家が、一枚一枚の切手を見て整理する時、その図案であったり、製品としての品質であったり、着目する視点は各々の収集スタイルによって異なるとは思います。
例えば、図案が平和的な図案から、戦争的な図案に変わって行く様を見た時に、その図案に対して何かしら感じること、思うことが出てくると思います。
これが、製品としての出来栄えの優劣という、製造面の変化であっても同じことが言えるでしょう。
そうした、場面、場面に遭遇した時に、その時代の社会全体の様子を知っていることは重要なことで、ましてやカバーなどの使用例を知るためには必須と断言できます。
教科書のような、硬い歴史書を読む必要はないと思います。
それよりも、そこに生きた人々の息遣いを知った方が、収集家には有益なことが多いはず。
ここまで書いて、一点書き忘れたことが。
『パリ、戦時下の風景』の中に、日本・フランス間の国際郵便の送達状況が出て来ます。