切手収集の入門書は色々とありますが、その中で古くから名著と言われていたのが、昭和38年に刊行された坂輔男氏の『切手収集を始める人のために』。
多くの初歩者向けの郵趣書が出版され、「入門」とか「集め方」というネーミングが幅を利かせていた時代に「始める人のために」という意表を突いたタイトル、そして書名から内容が想像できる文学的センスにまず脱帽です。
書かれている内容はもちろんのこと、良質な紙を使い、図版の印刷も鮮明な出来栄えに、今でも感心します。
手元にある同年代の普及書の多くが変色していることを考えると、白色の状態を保ったままでいる本書は、製作を担当した池田書店の「良い本を」というこだわりが感じられます。
僕は本書の特徴として、アルバムのリーフ写真が多いことに注目しています。
当時のいわゆる入門書は、「こんな切手がある」「あんな切手がある」という感じの切手紹介に力点を置き、そこに収集用品やカタログ、雑誌などの紹介を申し訳程度に付け足したレベルが主流。
そのような時代に「アルバム」という章を設け「アルバム代用」「アルバム各種(外国品)」「アルバムの表紙」「国産のアルバム」「アルバムとしての条件」の節で解説。
また「切手の整理とはり方」という章では、「左右均斉にはること」「貨幣単位や形の違うものは工夫して」「上下の釣合も考える」「発行順にはる場合」「書きこみについて」「トピカル・コレクションの場合」「切手をはりかえる時」「小型シートの場合」「初日カバーの場合」「みやすく、わかりやすい工夫を」と整理の実際についても述べられています。
そして、この二つの章の中に1ページ大のリーフ写真を13ページ使い、リーフに不慣れな読者に目で理解できるように工夫がされている点も素晴らしい。
本書が刊行されたのは昭和38年ですが、その2年前の昭和36年開催の「全日本切手展」からリーフでの出品が試験的に認められ、昭和40年の「全日本切手展」からリーフ出品が全面的に採用されています。
本書は「切手展への出品はアルバムリーフで」という考えの移行期に刊行されたものであり、それに果たした役割が大きかったのではないかと考えます。