1ページに10通のカバーが重ね貼りされたオークションカタログ。
その中に、ヒッソリと隠れるように名品が・・・。
1981年4月5日に東京で開催された Richard Wolffers オークション。
カタログには明記されていませんでしたが、在日外国局の郵便史家であり、日本初期切手の収集家として、またISJPの理事としても著名だったメツェラー氏のコレクションが主体となったものでした。
改めてカタログを見直すと、手彫切手の素晴らしいマテリアルの数々に目を奪われますし、在日フランス局ではデグロン君カバーが何通も・・・。
普通の在日フランス局のカバーなんて、そこらにゴロゴロと転がっています。
誰にもわかりやすくて有名なデグロン君カバーは、カラー図版で紹介されるか、もしくは1ページに1通の大きな扱いでリストされていますが、それ以外のマテリアルは最初に書いたようにまとめてドサッとした扱い。
そんなドサッとした扱いの中に、とんでもないマテリアルが・・・。
下のロット10がそれ。
オークショナーはもちろんのこと、このカタログを見たであろう多くの収集家の中でも、カバーの素性を理解していたのは、在横浜フランス局の専門家である松本純一氏だけ。
このカバー、松本氏の作品を通じてご記憶の方も多いと思います。
このカバー、筆まめで知られるルボン砲兵大尉発のものなのですが、軍事郵便用の二重丸印が押されたもので、図版でもそれが綺麗に見えています。
この軍事郵便用の消印が押されたものは、ルボン発では2通、他に3〜4通程度が知られているにすぎないもの。
僕の記憶では、素晴らしく状態の綺麗なカバーであったと記憶しています。
落札価格について松本氏は「メツェラー氏には申し訳ないほどの安い値段」であったと後に語っています。
名品と言われるものが堂々とカタログに紹介され、そして競われ、高値で売られて行くのは当たり前すぎて面白くないし、見方を変えれば経済力の勝利とでも言えます。
しかし、ひっそりと隠れるように出品され、それに気付くのは高度な知識と常に最新の注意を払っている収集家であり、実力の何分の一、いや数十分の一の値段で何食わぬ顔してサラリと入手。
これは、確実に切手収集の醍醐味の一つであることに間違いはないでしょう。
今では、在横浜フランス局の軍事郵便が極めて希少であることは、それこそ多くの方が当たり前の知識として持っていますが、それを定着させたのが本カバーであると言えます。