ワイルディング・グラファイトライン

現代イギリス切手の代名詞と言えば、誰もが先頃発行が終わったマーチンシリーズをあげると思います。
私自身も、アルバム4冊分ほど(2000年頃まで)は大分類程度を基本として収集をしていましたが、余りに膨大な種類に成長しすぎて「もう、わけわからん」状態になったのに加え、ショッキングピンクなど「これはないだろう・・・」的な色調が現れるなどして、興味が薄れギブアップ。

その点、まだ古き良き時代でもあったワイルディングシリーズは、適度なシリーズの大きさで、豊富なバラエティを背景に、今でも細々とではありますが収集を続けています。
もちろん、希少な高額品は眼中にはなく、一般的な収集の中での話しではありますが。

今日の話題は、下のリーフのうち下段に貼ってあるカバーです。
2d切手の1枚貼りですが、これは国内宛印刷物料金にあたり、カバー左上には “PRINTED MATTER” とあらかじめ印刷されていますから、銀行が大量に差出す印刷物用に用意していた封筒のようです。
宛先も同じ銀行の他支店宛なので、なにか業務用の印刷物を送ったものなのでしょう。

消印は Southampton 局1958年4月11日。
実は、このカバーの重要性はこの局名と日付にあります。

その前に貼られている切手ですが、一見したところ普通のワイルディング2d切手にしか見えませんが、この切手はグラファイトライン入りのもの。
下の画像の左の切手ですが、これはカバーと同じ2d切手の裏側です。
これで、普通の切手とは違うことが分かっていただけたと思います。
裏面に黒い線(グラファイトライン)が印刷されています。
この線は、膨大な量の郵便物を捌くために試作した取揃え自動押印機の試行に対応させるもので、このグラファイトラインを押印機に読み取らせ切手を検出して消印を行うというもの。
そして、その実験地区に Southampton 地区が選ばれています。
結論から言うとこの試験は失敗に終わり、その後、イギリスでは燐線式へと変わっていきます。

下の画像右は、上のカバーの切手部分の透視画像で、左辺(矢印の上下方向)に黒線が透けて見えるので、試験切手であるグラファイトライン切手であることがわかります。

Southampton 局での試験は、1957年12月19日に始まりましたが、切手はそれ以前の11月19日から売られ始めています。
下の新聞の切抜きは、Southampton の地元紙に報じられた11月20日付のグラファイトライン切手発売開始の記事で、それによると当該切手は Southampton から半径25マイル内にある約250局で売られるとあります。

ご紹介したカバーは、特に珍しい使用例というわけではありませんが、発行目的に沿った形で使用されたものということで、気に入っている使用例です。

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